急速な物価上昇のなか賃金改定は、大幅な昇給が避けられそうにありません。ですが、賃金制度の再設計を考えている会社にとっては、このような時こそが賃金制度を見直す好機です。
賃金制度の再設計は、賃上げ原資の関係で断念する企業もあります。
賃金上昇圧力は、賃金制度の再設計にとっては好機です。このタイミングでの賃金制度の再設計をお勧めいたします!
「日本型職務給」の推進か!
岸田首相は1月23日の施政方針演説で、「構造的な賃上げ」を実現するため、「リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って加速します」と発言した。さらに、日本型の職務給の確立については、「人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です」、「本年6月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします」と発言している。
「職務に応じて」とは、職務の難易度、責任の範囲等による職務評価によるものと思われる。
一方「スキルが適正に評価され」とは、個々人の保有能力あるいは発揮能力も評価していこうということと思われる。
つまりは、職能給イメージを残しながらの、職務給の導入が考えられます。
「職務・職責給設計ソフト」を参照
「業績・成果」を賃金決定要素とする企業の割合が縮小!
近年わが国は、企業環境の急激なグローバル化に伴う競争激化のなかで、短期的な変動に対応することを企業経営に求めてきました。そのなかで、わがの国の賃金制度は、成果・業績を重視する傾向が広がっていました。
加えて、日本社会で少子高齢化が進展するなかで、企業内でも従業員の高齢化が進み、特に団塊世代の高人件費化が重荷となったことも、成果・業績重視の考え方に傾かせたと考えます。
しかし、この傾向に変化が見られます。
厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査」によると、基本給の決定要素に「業績・成果」を挙げる企業が、平成13年調査より大きく減少したことに現れています。管理職では、64.2%→43.9%へ、管理職以外でも62.3%→43.3%へと減少。
一方、「職務・職種など仕事の内容」を「基本給決定要素」として挙げる企業が増えており、「職務遂行能力」を挙げる企業は減少したものの依然高い割合となっています。
このほか、「学歴、年齢・勤続年数」が減少しています。
「基本給の決定要素」(複数回答) (単位:%)
「平成29年就労条件総合調査」より(出典:厚生労働省)
近年、成果主義の弊害が指摘されてきており、極端な「業績・成果」重視を見直す動きが顕著です。
「職務遂行能力」をベースに残しながら、「職務・職種など仕事」重視にシフトしていく傾向にあります。
今後の人事賃金制度の方向!
■ 30歳までは育成型の人事賃金制度!
企業が持つ資源として、人・物・金・情報などが挙げられるが、そのなかで「人(従業員)のアウトプット」は大きく変わる「変数」であり、さらに、物・金・情報などに働く触媒としての影響力は大です。
そして、「人(従業員)」だけが、他の資源と異なり主体的な意思を持ち、能力の伸長や動機付けにより、力を大いに発揮させることができる資源であり、将来の目標や期待を示し、それに向かって育成していけば、力の発揮度もさらに大きくなります。
こうした考え方による人事管理が「能力主義管理」であり、多くの企業が採用している「職能資格制度」です。
そして、「能力主義管理」のポイントは、「保有能力」ではなく「発揮能力(アウトプット)」に着眼して運用をすることです。
30歳までの人事賃金制度は、「職務遂行能力」の伸長に基軸を置いた育成型の制度にすべきと考えます。
■ 30歳以降は「職務・職種など仕事」の「役割や職責」基準の人事賃金制度!
人事賃金制度について、「仕事」を基軸とした「仕事給」の導入傾向が広がってきていますが、日本企業の人事管理は、職種や職務の幅が広く、人事異動も柔軟に行われのが一般的です。
そこで、「仕事給」の決め方も仕事の範囲を小さく限定するのではなく、職群などに範囲を広げ、しかも「役割」や「職責」といった業績目標との関連でとらえるのが特徴となっています。
このような方法のメリットは、職務の変化や人事異動の柔軟性を確保できるという点にあります。
仕事の役割や職責をベースにした人事管理制度では、「役割(職責)資格等級制度」が一般的です。
担当する役割や職責そして職務により処遇(役割給・職務給等)が決まります。
30歳以降の人事賃金制度は、「職務・職種など仕事」の「役割や職責」に基軸を置いた業績目標型の制度が良いのではと考えます。
なぜ毎年、“昇給”しなけらばならないのか!
皆様のお考えは、いかがでしょうか?
☆ 昇給させたい社員は、どのような社員か!
〇人事考課結果の良い社員
〇成長があった社員
〇生活費のかかる年齢の社員
〇将来を期待する社員
〇退職されては困る社員
〇仕事の成果を出した社員
〇目標を達成した社員
〇能力の高い社員・・・等々
☆ 昇給させたくない社員は、どのような社員か!
〇現在でも給与の高い社員
〇成長のない社員
〇成果がでない社員
〇年齢の高い社員
〇前期と変わらず同じ仕事をしている社員
〇昔はよくやってくれたが今は・・・の社員
〇指示・命令に従わない社員
〇パートタイマーと同じ仕事をしている社員・・・等々
賃金体系
中小企業における会社力の要素の一つとして、定着率があります。
やっと仕事を覚え、これからと期待したころには辞めてしまう。これでは、会社は強くなれません。
この定着率の改善策として挙げたいのが、人事制度の構築です。人事制度の有無は、従業員の”やる気や成長意欲”を大きく左右します。
この人事制度の構築は、働き方改革の施行に伴う「同一労働・同一賃金」の制度設計にも繋がる人事施策です。
人事制度は一般的に人事評価・人材育成、人材活用そして人事処遇を有効に組み合わせて、有機的に運用することによって効果を発揮しますが、ここでは「処遇」を取り上げ「賃金体系(基本給)設計の考え方を以下に掲載します。
この賃金体系の見直しも、定着促進には欠かせない対策になってまいります。
給与は何を基準にして支払うのかで賃金体系が決まります。
・ 賃金項目例
基本給(例):年齢給 勤続給 能力給 職務給 役割給 職責給 業績給 歩合給 など
諸手当(例):役職手当 資格手当 営業手当 家族手当 子女教育手当 通勤手当 時間外手当 休日出勤手当 など
以下に、代表的な基本給設計である「職能給」と「職務給」について考え方を記載いたします。
また、毎年の昇給に評価を反映させるが、格差を累積しない「洗い替え方式の賃金」についての考え方も記載します。
職能給
職能給は、ライン管理者としてより高いポジションに上がっていくことをモデルとした「人事管理」です。
「職務遂行能力」をベースにした人事管理で、能力の伸長により処遇する「職能資格等級制度」が一般的であり、多くの企業が採用している人事制度です。
年功的にならないことに注意して運用すれば、導入しやすく、かつ理解されやすい制度だといえます。
企業が持つ資源として、人・物・金・情報などが挙げられるが、そのなかで「人(従業員)のアウトプット」は大きく変わる「変数」であり、さらに、物・金・情報などに働きかける触媒としての影響力は大です。
そして、「人(従業員)」だけが、他の資源と異なり主体的な意思を持ち、能力の伸長や動機付けにより、力を大いに発揮させることができる資源であり、将来の目標や期待を示し、それに向かって育成していけば、力の発揮度もさらに大きくなります。
こうした考え方による人事管理が「能力主義管理」であり、多くの企業が採用している「職能資格制度」です。
そして、「能力主義管理」のポイントは、「保有能力」ではなく「発揮能力(アウトプット)」に着眼して運用をすることです。
また、多くの中小企業では、毎年の定昇をどうするか悩んでおられるのではないかと思います。
自社の現行の賃金表で標準昇給させると、定昇率は、昇給額はいくらになるのか?
さらに、ベースアップ(ベースダウン)をすればどうなるのだろうかと… … …
そして、定昇を実施するにしても、現行の賃金表で標準昇給させると、予定の定昇率あるいは昇給額をオーバーしてしまうケースも出てきます。
その場合は、定昇後にベースダウン(賃金表の書換え)をするケースもあるかもしれません。
いろいろと頭を悩ませることになります。
「職能給体系設計ソフト」は、上記のような職能給の考え方を採っています。
職務給
職務給は、担当する仕事(職務・職責・役割)を基準に決定します。
・最新鋭機械のオペレータをしている。
・高(中)難易度の熟練作業を担当している。
・作業班の班長として工程管理を担当している。
・工場設備の改善とメンテナンスを担当して不良品の削減と作業の効率化を推進している。
・社内人材の訓練・育成計画の作成と推進を担当している。
・中(大)組織の課長(部長)職を担当し組織目標の達成に取り組んでいる。等々
職務給は、具体的にどのような仕事・職務・役割を担っているかによって、その難易度を評価して給与を決定する処遇制度です。
近年 人事賃金制度については、「仕事」を基軸とした「仕事給」の導入傾向が広がってきていますが、日本企業の人事管理は、職種や職務の幅が広く、人事異動も柔軟に行われのが一般的です。
そこで、「職務給」の決め方も職務の範囲を小さく限定するのではなく、職群などに範囲を広げ、しかも「職務」や「職責」、「役割」といった業績目標との関連でとらえるのが特徴になっています。
このような方法のメリットは、職務の変化や人事異動の柔軟性を確保できるという点にあります。
「職務・職責給体系設計ソフト」は、下表の「職群別の複線型人事」の考え方を採っています。
そして、複線型(職群別)人事とは、管理目的をもっていくつかのコース(職群)を設け、仕事に応じて細かく処遇するシステムです。
それぞれの賃金テーブルは、職群別の範囲給となります。
仕事の役割や職責をベースにした人事管理制度では、「職務(職責・役割)資格等級制度」が一般的ですが、担当する役割や職責そして職務により処遇(職務給・役割給・職務給等)が決まります。
そして、給与の決定は、その担当する職務の「一人前基準」を参考に判断することができます。この 「一人前基準」とは、その職務で一人前になるには、どの程度の知識・技能そして年月が必要かということです。仕事の難易度でもあります。
「一人前基準」の考え方の例】
職 群 例 |
一人前基準例(イメージ) |
賃金テーブル例(イメージ) |
一般職群(基礎的仕事:一般事務職・作業職・現業職等) |
1〜5年で習得できる。それ以上の経験を積んでも生産性(生産量)のアップがあまり見込めない職務 |
月給制:基本給150,000円〜250,000円のテーブル |
総合職群(基幹となる仕事:企画職・管理事務職・営業職等) |
能力の発揮度によって、成果が大きく変化する職務 |
月給制:基本給200,000円〜350,000円のテーブル |
管理職群(経営的な仕事:管理職・研究開発職等) |
仕事を任せて、その成果・業績により処遇する職務 |
月給制:基本給300,000円〜500,000円のテーブル
(年俸的な考え方の処遇) |
「洗い替え方式」賃金
「洗い替え方式の賃金=洗い替え給」の運用は、原則として、全員の号俸を毎年1号俸ずつ昇号させます。そして 昇号時に人事考課の結果に応じて給与額(格付け)が決まります。その際、昇給額には差がでます。
ただし、この格付けによる給与差は累積されず毎年リセットされ、次の人事考課の結果に応じて、給与額(格付け)を決定します。
つまり、「洗い替え給」は単年度単位で人事考課を反映する、リセット方式の考え方を採っています。
「洗い替え給(4段階一致)」 賃金表の例
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□4段階一致方式の運用の例(上表)
洗い替え賃金表の運用は、毎年1号俸上位のS評価〜D評価のいずれかに格付け(昇給)します。
賃金表は、「2段階一致方式」、「3段階一致方式」での設計もできます。
【昇給運用例】
3等級3号俸評価A 82,850円の者 → 翌年の評価がCになると3等級4号俸評価C 84,150円へ
【昇格運用例】
3等級5号俸A88,050円の者 → 翌年の評価Sだと3等級6号俸S 91,300円 へ
⇒ 同年に昇格 91,300円+(4等級昇格昇給加算 4,500円)=95,800円
⇒ 4等級の直近上位B評価に格付けする(4等級4号俸B 98,000円)
毎年の昇給に評価を反映させるが、格差を累積しない洗い替え方式の賃金設計です。
評価を反映できない号俸表を採用している病院や社会福祉法人等の賃金再設計に、あるいは、あまり格差を好まない事業所に適した賃金表といえます。